おとーさんのバイク日記

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<<   作成日時 : 2010/08/20 22:53   >>

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 いつもと同じように仕事を終えて、いつもと同じように乗り慣れた自分の車で、いつもと同じように帰宅する時のことだった。
 東京から百数十キロの地方都市。中途半端に首都圏で、中途半端に田舎。言葉になまりは少ないものの、公共交通機関が成り立つほど人がいるわけでもない。都内に事務所を構えるほど、財力のない中小企業が本社を構えるのには丁度良い地方都市。
 この街に移り住んでもう何年になるだろう。会社帰りの居酒屋に、当たり前のようにある広大な駐車場が不思議ではなくなり、「代行運転」などと言うシステムを使いこなせるぐらいの月日はたっている。
 いつものようにエンジンをかけ、カーナビの画面に地図が出るのを何となく見ていたら、いつもとちょっと違うことがしてみたくなった。
 どうしてなのかは解らない。考えるのが面倒くさかったのかも知れない。深い意味はなかったんだろうけど、何となく自宅を目的地に設定してみる。
 毎日通っている同じ道だろうと、機械は忠実に計算を行い、外から電波に乗ってやってくる情報を分析し、最適なルートを計算していく。
 と言っても、大都市のように複雑な情報があるわけではない。通勤のほとんどが自家用車を使う土地柄とは言え、慢性的な渋滞が起こるほど沢山の車が走っているわけでもない。
「次の交差点を、右折です。」
 機械的な声が、いつもと同じルートを、当たり前のように指示してくる。指示に従い、2〜3回交差点を曲がると、いつもの国道に出る。オーディオから流れる軽い音楽を聴きながらの通勤運転は、ほとんど無意識にいつものルートをたどり始めた。
 と、ナビの画面に普段はあまり見たことのない表示が現れた。
「交通情報を受信しました。」
「新しいルートが見つかりました。」
「再計算中です。」
好奇心が頭をもたげる。この先で事故でもあったのだろうか?道路工事でもしているのか?
「500m先左折です。その先右方向です。」
 当たり前のようにナビが指示してくる。通い慣れた道で、一度も曲がったことのない交差点を曲がれと言ってくる。素直に従うことにする。
 曲がった先の景色は新鮮だった。同じような町並みの、同じような道なのだが、始めての通りは新鮮だった。
「500m先、斜め左方向です。ガソリンスタンドが目印です。」
 ナビは、まるで「あなたには始めてかも知れないけれど、私はよく知っているのよ。安心して私の結う通りに走りなさい。」とでも言っているように、細かく指示を出してくる。
 とっくに知っている道からは離れている。そんなに遠くに来ているわけでは無いはずだが、見知らぬ場所には違いない。自分が何処にいるのかだんだん解らなくなってきている。ナビに従うしかない。目的地は我が家なのだから。
 辺りは徐々に暗くなってくる。ヘッドライトが勝手に明るくなる。最近の車は至れり尽くせりだ。何でもかんでも「AUTO」にしておけば、みんな勝手にやってくれる。暗くなったら明かりが付くだけではない。室内の温度は夏でも冬でも一定に保たれるし、雨が降り出せば勝手にワイパーが動いたり、バックにギアを入れれば、直後の地面がモニターに映ったり。長距離を走れば、「そろそろ一休みしませんか?」まで言ってくる。人間がやるのは、ハンドルを切るのと、アクセルを踏むことだけ。それも、どっちに切るかは、車が教えてくれる。
 気がつくと、周りの景色から人の気配が消えている。さっきまで見えていた家並みが見えなくなり、周りは畑だろうか?道は続いているのだが。
 時計を見ると、普段ならとっくに家についても良い時間になっている。ナビの到着予定時刻は、後10分ほど。
 家の近くにこんな所があるとは知らなかった。この辺りはちょっとはずれるとホントに何もないんだよなあ。等と思いつつ、車を走らせる。
「新しいルートが見つかりました。」
「500m先、左方向です。」
 到着予定時刻は、後10分。
 おいおい、勘弁してくれよ。指示通りに車を走らせ、しばらく行くと、
「新しいルートが見つかりました。」
「500m先、斜め右方向です。」
 到着予定時刻は、後10分。
 いったいここは何処なんだ?カーナビの画面には、指示されたルートしか写っていない。手近なランドマークは何もない。画面を広域にしてみる。広げていっても何もない。全県が写るところまで行って、やっと大体の場所が解るぐらい。県の何処にいるか解っても家には帰れない。とりあえず、ナビの言う通りに走るしかない。
 指示通りに10分ほど走ると、
「新しいルートが見つかりました。」
 到着予定時刻は、後10分。
 流石に不安になって車を路肩に寄せる。エンジンを切る。自動的にライトが消え、オーディオが止まる。空には星も、月もない。周りに明かりは全く見えず、真の闇。
 真の闇は人から最初に距離感覚を奪う。前も、後ろも。無限の距離を見ているのか、すぐ目の前の壁を見ているのか?何かあるのか?何もないのか?
 上は?何も見えない。下は?何も見えない。突然襲ってくるめまいのような浮遊感覚。まっすぐ立っているのか?倒れかかってているのか?
 慌ててドアを開ける。車の中だけ現実感が戻ってくる。ドアの隙間から見える、半径1mの世界。その先は闇。
 エンジンをかける。一気に戻ってくる現実感。オーディオから流れる音楽。ヘッドライトに照らされた、頼もしい道路。荒い息をしている自分に気付く。
「ルート案内を開始します。」
「およそ1km先。右方向です。」
 到着予定時刻は、後10分。

                              完

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はらはらどきどきしましたよ。星新一ワールドみたい(笑)

2010/08/26 22:02

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